投資分野で関心を集めている仮想通貨ですが、用語的には仮想通貨から暗号資産へと移り変わりました。名称変更の背景とともに、暗号資産とはどのようなものなのか、また電子マネーとどのような違いがあるのか、暗号資産と仮想通貨、暗号資産で仮想通貨以外のものにはどのようなものがあるのか、など分かりにくい点を整理してみたいと思います。
1.暗号資産とは
(1) 暗号資産の定義
暗号資産とは、インターネットを通じて不特定多数者に対して、商品やサービスの購入の対価として利用できる、現物のない電子データ資産のことを指します。
暗号資産はインターネット上での送金や決済に用いられ、世界中の取引所で法定通貨とまたは暗号資産同士の売買が行われていますが、法定通貨のように国などの保証はないものです。
また、従来の暗号資産・仮想通貨は、基本的に国や中央銀行などの公的な発行主体や管理者が存在しないものです。
日本では2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、今まで「仮想通貨」と呼ばれていた名称が「暗号資産」へと変更されることとなりました。仮想通貨は国際的に「通貨」と呼ぶにふさわしくないと指摘され、仮想通貨をドルや円のような「法定通貨(法律で定められた通貨)」と明確に区分する為に使われるようになりました。
背景として、2018年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催された国際会議「G20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)」の共同声明にて「仮想通貨(暗号通貨)は通貨としての特性を欠く」と厳しく言及される事となり、国際会議では初めて「暗号資産」と表現されました。
国際的な名称の変更に合わせて、日本でも「暗号資産」という呼称に変更にしました。仮想通貨を「通貨」と呼ぶにふさわしくないという結論に至った背景には、「仮想通貨がマネーロンダリングによる犯罪の温床となり得る」といった懸念などがありました。
(2) 通貨の概念
通貨が成立するための要素としては次の3つの要素があります。
- 財とサービスの交換手段であること
- 価値を測ることができること
- 価値を保存する手段があること
従来の暗号資産は②の「価値を測ることができること」の点で価格が不安定です。
暗号資産仮想通貨の発行に関する仕組みがビットコインなどでは徐々に発行を減らしていく仕組みとなっており、需要と供給のバランスが崩れて価格が上がる点があります。
このような価値の不安定な資産は価値の尺度として使うことはできません。現状の暗号資産は、通貨としての規定に当てはまらないという一般的見解です。
(3) 暗号資産と仮想通貨
仮想通貨は暗号資産に含まれますが、暗号資産はインターネット上の暗号を用いて安全性を高めた仮想通貨を含む電子データ資産のことを指します。いずれもコインやお札のような形のある実体を持っていない、デジタルデータとしてだけ存在している資産です。
2.電子マネーと暗号資産の相違
(1) 電子マネーとは
電子マネーとは、特定の企業などの発行者が存在し、電子的に決済できる現金の価値を持つものと言えます。
現金と等価の価値を持つものとして規定内で使用できるものです。規定とは、電子マネーの発行者が規定した場所と目的に合致した場合に使うことのできることです。Suica、楽天Edy、nanaco、WAONなどがあります。カードは発行されていますが、データは基本的にサーバーに保存されており、カードは単にサーバーへの鍵の役割を持っているものです。また、スマホの普及で各種の決済用の電子マネーが開発され、スマホという端末が鍵の役割を持つ形態が生まれてきています。いずれも現金で前払いした方式です。
(2) 「転々流通性」のない電子マネー
通貨は一度使って終わりではなく、通貨自体で何度も多様に使える流通性があります。これを「転々流通性」と言います。しかし、電子マネーはあくまでも発行主体に戻して換金するしかありません。電子マネーは通貨とは異なるもので、あくまでも決済手段の1つでしかありません。
(3) 電子マネーのメリットとデメリット
電子マネーのメリットは、決済の際に現金が不要なので利便性が高く、使用履歴がすべて記録されるので管理しやすい面があります。
逆にデメリットは、使える場所、店舗、用途が限定されていることです。「用途の限定性」です。
また、現金を電子マネーに変換できますが、電子マネーから現金への変換は基本的にできません。「電子マネーから現金へ不可逆性」です。
(4) プリペイドカード
電子マネーと似たものにプリペイドカードがあります。事前にチャージした分だけが使える前払い方式のものです。カード自体に残高が記録されているものです。
(5) 暗号資産が電子マネーと区別されるポイント
一方暗号資産は、暗号資産自体に価値があり、電子マネーの「転々流通性のなさ」「用途の限定性」「電子マネーから現金へ不可逆性」のないものでなければなりません。
3.通貨以外の暗号資産とは?
通貨としての目的以外の暗号資産には、以下のようなものが挙げられます。
①ブロックチェーンに紐づけられるデータ資産
暗号資産のブロックチェーン(注)は、送金や売買などの取引を記録することができます。コインの取引以外にも、契約書や決済のタイミングを指定する、といった内容の書類も紐づけが可能です。
ブロックチェーンとは、暗号資産に用いられる基盤技術で分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに、暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法です。一定期間の取引データをブロック単位にまとめ、コンピューター同士で検証し合いながら正しい記録をチェーン(鎖)のようにつないで蓄積する仕組みであることから、ブロックチェーンと呼ばれます。別名「分散型台帳」とも呼ばれます。
②登記簿やカルテ、個人情報の履歴データ
不動産登記や医療用のカルテ、生年月日や連絡先といった個人情報などを紐づけて、データ上で有効な契約書類とできる可能性があります。個人情報や知的財産については、暗号資産の普及によって、今後さらに価値が見直される可能性もあります。
③音楽データや電子書籍の著作権のデータなど
企業にとりまとめられることなく、個人間でビジネスが行えるCtoCビジネスや、シェアリングエコノミーでの扱いにも可能性があります。物々交換の延長のような感覚で導入されるものもあるでしょう。
4.日本政府の対応と「改正資金決済法」
2017年4月、金融庁は「改正資金決済法」と呼ばれる新たな法律を施行し、仮想通貨を正式に「通貨」として定義しました。「仮想通貨」とは、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、「資金決済に関する法律」において、次の性質をもつものと定義されています。
- 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
- 電子的に記録され、移転できる
- 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない (金融庁)
それに伴い、国内で仮想通貨取引所を営む業者は「仮想通貨交換業」の登録が義務付けられるようになりました。
その後先述した2018年に開催された国際会議「G7」で、仮想通貨(Virtual Currency)は暗号資産(Crypto Asset)と呼称されるようになりました。これを受け日本では金融庁が中心となり、呼び方を仮想通貨から暗号資産へ変更しようとする動きが出ました。
金融庁が仮想通貨を「通貨」と定義するようになりましたが、従来の仮想通貨の場合は、激しい価格変動を狙う為の「投機対象」としてのニーズの方が過度に高まり、実際の利用シーンをほとんど持たないものになっています。2017年は空前の盛り上がりをみせた暗号資産市場ですが、それとは裏腹に価格の安定性が低下し、結果的に「通貨」としての機能性を下げてしまう事となってしまいました。
通貨が「通貨」として機能する為に最も重要となるのは「信用」です。しかし、現状の仮想通貨は、日本円などの法定通貨に取って代わる「通貨」として機能するには多くの欠点があると言えるでしょう。価値そのものが不安定で、法定通貨との安定的交換性に問題のある場合もあり、仮想通貨を支払手段として利用できる店舗、場所は限られています。
その上、投機的な需要の先行によって価格変動が大きくなり、価値の安定性の欠如に影響を与えています。
まとめ
仮想通貨を含む暗号資産が特定の国家や中央銀行に価値を左右されない「新しい概念」である事に間違いはありませんが、そこに人々からの「信用」が無ければ、たとえ法的に「通貨」の一種として認められたとしても、通貨の役割を果たすことはできません。仮想通貨を含む暗号資産はまだ人々から十分な「信用」を得ることができていないことからも、通貨として機能するには多くの課題があります。暗号資産は金融資産、金融商品としても明確には位置づけられず、モノの1分野としての特殊なデータ資産である現状です。
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