フェイスブック「リブラ」の登場で従来の暗号資産、仮想通貨の概念が変わろうとしています。リブラは暗号資産の不安定さや発行主体のない点などを改革し、法定通貨と連動し、資産の裏付けのある形態を作り、決済能力のあるものです。リブラは暗号資産ではなく、電子マネーの概念に近いものと言えるでしょう。ビザやマスターカードなどのカード会社も参加し、これらの世界5千万の加盟店でも使えるものです。グローバルな利用者を持つフェイスブックだけに、各国の政府や金融機関にも大きな影響力を与えグローバルな新しい独自の経済圏を作る可能性があります。
1.世界の暗号資産の普及度
暗号資産と呼ばれる前のデータのため、ここでは用語は仮想通貨としておきます。
ケンブリッジ大学のレポート「The Cambridge Centre for Alternative Finance」によると、昨年の時点で仮想通貨の利用者は全世界で300万人を超えているとされています。
参照The Cambridge Centre for Alternative Finance
また、ドイツベルリンのグローバルデータリサーチ会社である「Dalia Research(ダリア・リサーチ)」が2018年5月9日に公表した調査結果があります。この調査は、仮想通貨の市場規模が大きい8か国の29,000人に対して、インターネットを通じておこなわれたもので、対象国の平均7%に対して日本の仮想通貨保有率は11%と最も高く、金融先進国であるアメリカやイギリスの各9%を上回る結果となっています。調査対象となっている8か国の内訳は日本の他、アメリカ、イギリス、デンマーク、インド、中国、韓国、ブラジルです。
日本は仮想通貨への認知度でも83%と、87%の韓国に次いで2位、理解度では61%と1位となっています。
また、日本のデータはありませんが、同じドイツのオンライン統計企業であるスタティスタの行った調査によると、欧米を中心とした15カ国で仮想通貨の保有率は、トルコ18%、ルーマニア12%、ポーランド11%、スペイン10%、チェコ9%、アメリカ8%となっています。なお、この調査での有効回答数は14,828人で、各国約1,000人から回答を得たそうです。
背景としては各国の政情不安と金融危機があると考えられ、政情不安の結果通貨の下落があります。政策金利も高い水準となっており、経済的に不安定な状況が続いている場合、法定通貨よりも、仮想通貨を保有した方が安全と考える人が増える要素があります。
ビットコインについては、日本は取引額が世界でもトップレベルに多い国で全体の過半数を占めており、アメリカドル、韓国ウォンなどが続いています。ただし、大半が投機目的で保有されているとみられ、使用目的ではほとんど使われていません。
2.フェイスブック「リブラ」(Libra)とは
フェイスブックは現在世界で約26億人(月間)もの人が利用する巨大SNSとなっています。このフェイスブックが取り組む電子マネーと思われるものがリブラで、リブラの登場で世界的な電子決済の普及の拡大が予測されます。
(1) 「リブラ」(Libra)とは
リブラとはFacebookが作成する金融資産です。従来の暗号資産・仮想通貨は政府や中央銀行などの公的な発行主体や管理者が存在しないものと定義づけされてきましたが、その点では民間の発行主体が存在し、かつ通貨の概念の、
- 財とサービスの交換手段であること
- 価値を測ることができること
- 価値を保存する手段があることに準ずる
を満たし、特に仮想通貨で問題であった②価値を測ることができることについて、法定通貨との連動制を仕組みとして取り入れるものとして、電子マネー的な要素を持つものと考えられます。従来の暗号資産の持つ価格変動が激しく安定性を欠き、投資・投機のイメージが強い現状を変革するものとして注目されています。
法定通貨に近い機能を備えたリブラは、利便性の高い送金や実店舗での支払いなどあらゆるものに使えるグローバルコインを目指しています。フェイスブックは法定通貨(ドルや日本円)に近い機能を持ったグローバルな独自の経済圏を作りたいと考えていると思えます。そのため世界の政府、金融業界に与える衝撃性は極めて高いものになっています。
導入については世界の政府、金融業界に与えた影響が大きく、フェイスブック側もこれらとの協議を優先し、2020年早期の導入は見送られる動向となっています。そのため、リブラの機能、システムについては検討中という段階です。
(2) リブラの機能
リブラは次のような機能を持つものとして開発されています。
- 米ドルや他の法定通貨の価格と連動したものにする
- 銀行の口座がなくても、また、自国通貨の変動が激しい新興国でも使えるようにする。
- メッセンジャーなどのアプリを使って送金や実店舗での支払いができるようにする。
- 他国通貨(ドル、日本円など)との交換が可能なものにする。
このようにリブラは通常の暗号資産とは違い、価格変動が起こりにくい仕組みを取り入れ、世界共通のお金と言うものを実現させようとしています。
リブラの価格変動が起こりにくい仕組みとは、リブラを発行する上で裏付けされる資産があるからです。
ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨は発行を行う上で、裏付けされた資産がありません。つまり需給で価格の変動が起こります。これに対してリブラの場合は、裏打ちされる資産(法定通貨)があるので、需給に関わらず価格の変動が起こりにくい仕組みとなっています。裏付けとなるお金が担保され保管がされるということは、担保された通貨は信託会社に預けられ、銀行預金や短期国債などで運用して金利収入を得ることになります。
(3) リブラの発行目的
リブラを発行する目的としては世界の金融インフラを整えるためとしています。途上国を中心に、世界ではまだまだ銀行口座を持たない人が約17億人とも言われています。
開発されるデジタルな通貨は、個人個人で簡単に保管・管理が行えるようになっているので、銀行口座を持たなくても資産を保管することができます。またウォレット(暗号資産の財布)を使うことで送金や決済も可能です。
更に銀行口座を持っていたとしても、国際送金であれば手数料が一回数千円かかることもあり、着金まで数日というのも当たり前です。しかし、リブラであれば、ウォレットからの送金で手数料も数円~数十円くらいで収まります。着金も現状の仮想通貨の技術を考えれば数分で完了するでしょう。
(4) リブラの発行主体と協力団体
リブラの発行を進めるフェイスブックですが、発行主体は別途設立した「Libra協会」となっています。独立・非営利・メンバー制の組織で、本部はスイスのジュネーブにあります。
協会メンバーでは、Facebookの他、MasterCard、PayPal、Visa、eBay、Coinbaseなど世界的なカード会社も参画しています。
その他の企業・団体では、ストライプ(オンライン決済システム)、ペイユー(オンライン決済システム)、メルカドリブレ(南米のネット通販企業)、ファーフェッチ(ラグジャリー・ファッションのネット通販企業)、ウーバー(ライドシェアリング)、リフト(ライドシェアリング)、スポティファイ(音楽配信サービス)、ブッキング・ホールディングス(旅行関連サービス)、ボーダフォン(英国の携帯通信会社)、イリアッド(フランスの通信プロバイダー)、キバ(新興国の起業家支援)、マーシーコープ(被災地支援)、ウイメンズ・ワールド・バンキング(女性起業家を支援するマイクロファイナンス)、クリエイティブラボ(起業家支援)、フェイスブック[カリブラ](libraのために設立されたFacebookの子会社)、コインベース(仮想通貨取引所)、ザポ(仮想通貨管理プロバイダー)、アンカレッジ(仮想通貨のカストディー“保管”業者)、バイソントレールズ(仮想通貨のインフラストラクチャのクラウドを通じて提供)、アンドリーセン・ホロウィッツ(ベンチャーキャピタル)、ユニオン・スクエア・ベンチャーズ(ベンチャーキャピタル)、スライブキャピタル(ベンチャーキャピタル)、リビットキャピタル(ベンチャーキャピタル)、ブレークスルー・イニシアチブ(ベンチャーキャピタル)などです。
(5) リブラの送金の利便性
リブラと従来の法定通貨の送金などの利便性の点で比較してみると次のような表になります。
送金スピード | 法定通貨(銀行送金) | 1週間(営業日中) |
手数料 | 〃 | 少額国際送金でも数千円から。発展途上国の中には数10%もの手数料がかかる場合も。 |
リブラでは送金につき現在の銀行送金とは違い、迅速にそして格安の手数料ですぐに世界中に送金ができるとしています。
(6) リブラに関する懸念
2019年7月16日に米国議会で公聴会が開催され、フェイスブック の仮想通貨・ブロックチェーン部門のCEOであるデビッド・マーカス氏が証人として出席しました。
公聴会での質問 | 回答内容 |
マネーロンダリングなどの不正な使用に対して十分な規制ができていない。 | 適正な承認を受けるまで、リブラは発行しない。 |
リブラの目的は? | 世界中の人々が安全で安価な方法で効率的に通貨をやりとりする方法を開発。決済(支払い)ツールであり投資目的ではない。 |
リブラの価格の裏付けは? | リブラはLibra Reserveを通じてLibraはドル、ポンド、円、ユーロなどの複数の通貨のバスケットと1対1で対応する(これらの通貨の平均価格)。ドルは現在のところ5割の比率で考えている。 |
現在の自国の通貨など法定通貨との影響は? | 世界のいかなる基軸通貨とも競合する意図はない。各国の金融政策を妨げないよう米FRB(連邦準備銀行)やその他の中央銀行と協力していく方針。 |
リブラでの個人情報はフェイスブック と共有するのか? | 共有はしない。Facebookのユーザーやユーザー企業がFacebookのサービス上でLibraを使うことが、我々の利益となる。 |
リブラの本部をスイスにした理由は?なぜ米国ではないのか? | スイスのジュネーブは世界的な国際機関が集まる都市で、各機関との連携が取りやすい。決して米国の規制を逃れるためにスイスに本部を置いたのではない。 |
公聴会での質問の主なものとしては、リブラの使用に対しての規制がまだ不十分で、不正な使用に使われる可能性があるというものを強調したものでした。
(7) リブラの支払いツールとしての拡大の必要性
リブラの支払いツールとしての使用先では、企画段階の提携企業には次のようなものがあります。
- VISA、マスターカード、ペイパル
- ウーバー
- コインベース 、XAPO
- eBay
- Spotify
まとめ
フェイスブックのマーク・ザッカーバード最高経営責任者は、2019年7月24日、リブラについて、「始める前に規制当局のすべての懸念に対処する」と述べ、政府や中央銀行に協力する姿勢を示しました。導入は当初の2020年上半期の予定を延期する方向となっています。
マーク・ザッカーバード最高経営責任者の今後の方向性としては、リブラの買い物や送金などの支払いツールとしての利用方法の拡大が戦略として重要であるとの見解を示しました。
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